「ADHDの脳は『数年(発達が)遅れている』のか?」―前頭前野の発達をめぐる誤解-

「ADHDは前頭前野の発達が数年遅れている」という説明は、入口としてはわかりやすいものです。しかし、この一文だけではDHDの子どもたちの困りごとを十分には説明できません。独り歩きすると誤解にもつながります。より正確に理解するために少なくとも、次の6つに分けて考える必要があります。
川﨑聡大 2026.05.24
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前頭前野の発達をめぐる誤解

 ADHDについて、「前頭前野の発達が数年遅れている」と説明されることがあります。この説明は、まったく根拠のないものではありません。実際に、ADHDのある子どもでは、前頭前野を含む大脳皮質の成熟が、定型発達の子どもよりも遅れて観察されることがあります。

しかし、この説明には少し注意が必要です。

「前頭前野の発達が遅れている」と聞くと、まるでADHDの子どもの脳が“年齢より幼い”かのように受け取られがちです。けれども、実際にはそれほど単純ではありません。

ADHDの困難は、前頭前野だけで説明できるものではありません。注意を保つ力、行動を止める力、感情を切り替える力、報酬への反応、時間の感じ方、身体の状態、そして環境との相互作用が関わっています。

大切なことは、「何歳分遅れているのか」と考えることではありません。

むしろ、どの働きが、どの場面で働きにくくなっているのかを見ていくことです。

前頭前野は単なる「脳のブレーキ」ではなく「からだ全体の調整役」

 ADHD特性の説明では「前頭前野(PFC)」がよく登場します。この領域が何をしているのか少し理解を深めておきましょう。前頭前野は、注意を向ける、行動を抑える、見通しを立てる、感情を調整する、といった働きに関わるため、「脳の司令塔」や「ブレーキ」と表現されることがあります。たしかに、この表現はわかりやすいものです。

誤解を生まないように、少し丁寧にみていきましょう

 前頭前野は、ひとりで命令を出している場所ではありません。むしろ、身体の内側から上がってくる情報、目や耳から入ってくる刺激、感情の動き、疲労、空腹、眠気、緊張、報酬への期待などを受け取りながら、いま何に注意を向けるべきか、どの行動を選ぶべきかを調整している場所です。

 つまり、前頭前野は「上から行動を押さえつけるブレーキ」というよりも、からだ全体の状態を読みながら、行動のアクセルとブレーキを調整する場所と考えた方がよい(そう考えないと支援や教育につながらない)

 たとえば、同じ子どもでも、よく眠れた日と寝不足の日では、集中の続き方が違います。お腹が空いているとき、不安が強いとき、教室が騒がしいとき、叱られた直後、楽しみな予定がある日。こうした身体や環境の状態によって、注意や衝動のコントロールは大きく変わります。これは、ADHDの困難が「心がけ」だけで決まるものではないことを示しています。

 私たちはつい、注意や我慢を「本人の意思の力」と考えがちです。しかし実際には、注意を向ける力や行動を止める力は、睡眠、覚醒水準、自律神経、感情、報酬、身体感覚、環境刺激などと深く結びついています。前頭前野は、その複雑な情報をまとめながら働いています。

 そのため、ADHDを考えるときには、前頭前野だけを見るのではなく、身体全体の調整システムとして見ることが大切です。

 「じっとしていられない」子どもは、単にブレーキが弱いのではないかもしれません。身体の覚醒水準が高すぎたり、逆に低すぎたりして、動くことで自分の状態を調整しているのかもしれません。もちろん他にやりたいことがあったり、よくわからない!逃げたい・・かも。

 「集中が続かない」子どもは、努力が足りないのではなく、注意を向け続けるための身体の準備状態が整いにくいのかもしれません。

 「すぐに反応してしまう」子どもは、考えていないのではなく、刺激に対する身体の反応が速く立ち上がりすぎて、前頭前野が調整する前に行動が出てしまっているのかもしれません。

 こう考えると、ADHDの支援は「もっと我慢しなさい」「ちゃんと集中しなさい」では足りません。必要なのは、前頭前野に無理をさせることではなく、前頭前野が働きやすい身体と環境の条件を整えることです。

睡眠を整える。
刺激を減らす。
まず本人がわかると実感できる環境を作る(見通しを示す・短い区切りをつくる)
身体を動かす時間を入れる。
失敗の前に選択肢を用意する。
小さな達成感をこまめに返す。

 こうした支援は、単なる「配慮」ではありません。前頭前野を含む調整システムが働きやすくなるように、身体と環境の条件を整える工夫なのです。ADHDを理解する第一歩は、「前頭前野の発達が遅れている」と覚えることではありません。前頭前野が、身体、感情、環境、報酬、注意をつなぐ調整役として働いていることを理解することです。

 その視点に立つと、ADHDの子どもの行動が単なる「困った行動」ではなく、その子が自分の身体と環境の中で、なんとか状態を調整しようとしている姿として見えてきます。

1.神経成熟の遅れと、機能発達の遅れは同じではない

 ここで、もう一つ大切なことがあります。

それは、神経の成熟が遅れて見えることと、実際の機能発達がそのまま遅れていることは同じではないという点です。*意外と混同されています

脳の構造的な成熟とは、皮質の厚さ、脳の体積、白質の発達、神経同士のつながり、ネットワークの整理など、脳そのものの変化を指します。

一方で、注意を保つ、行動を止める、気持ちを切り替える、見通しをもって行動する、といった力は、脳の構造だけで決まるわけではありません。

同じような神経発達の状態であっても、睡眠、疲労、ストレス、不安、周囲の刺激、課題の難しさ、周囲の人の介在の有無によって、その人が発揮できる力は大きく変わります。

つまり、神経成熟は、機能発達を支える土台の一部ではあります。
しかし、神経成熟そのものが、機能発達そのものではありません。

ここを混同してしまうと、

「脳が遅れている」だから「行動も年齢より幼い」

という短絡につながってしまいます。

しかし実際には、ある場面では注意を保てなくても、別の場面では驚くほど集中できる子どもがいます。集団の中では衝動的に見えても、一対一の落ち着いた環境では、よく考えて行動できる子どももいます。

これは、ADHDの困難が単純な「能力の不足」ではなく、
脳の成熟、身体の状態、課題の性質、環境との相互作用の中で現れるもの
だからです。

だからこそ「前頭前野の成熟が遅れている」という研究知見を、そのまま「実行機能が何歳分遅れている」と置き換えてはいけません

構造の発達、機能の発達、そして実際の行動として表れる困りごとは、それぞれ関係しています。しかし、それらは同じものではないのです。

今回は前頭前野の働きと成熟からADHD特性、特に実行機能について掘り下げています(~6まで続いています)。次回は読み書き困難その2と題してサポートメンバーを対象に症状別の解説を考えています。是非ご登録ください。

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