実態理解は、どのような教育実践につながるのか
— 知っていること、信じていること、期待すること(全3回) 川﨑レターラボ #2

発達障害について正しい知識を持つことは、適切な支援につながるのでしょうか。
今回(レターラボ#2)は、ADHDに関する知識や信念と教育実践との関係を調べた研究を紹介します。論文の結果を踏まえながら、知識を実践につなぐ実態理解のあり方、そして知識が子どもの理解を深める一方で、原因帰属の偏りを補強しかねない可能性について、私自身の考察も交えて考えていきます。
川﨑聡大 2026.10.29
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1.「知っている」ことと「理解している」ことは同じなのか?

発達障害のある子どもへの支援を考えるとき、私たちはよく「まずは障害特性を正しく理解することが大切だ」と言います。

もちろん、その通りです。

ADHDであれば、不注意や多動性、衝動性といった特徴を知ること。ディスレクシアであれば、読み書きの困難が本人の努力不足によるものではないことを知ること。こうした知識は、適切な支援を考えるうえで欠かせません。

しかし、ここで一つ考えてみたいことがあります。

障害について正しい知識を持っていれば、それは適切な教育実践につながるのでしょうか。

私たちは、得られた知識をそのまま行動に移しているわけではありません。知識をどのように解釈し、何を重視して行動するかという過程には、それぞれの教育観や信念が関わっています。これは教員に限ったことではなく、医療や福祉など、人を支援するあらゆる場面に共通する問題です。

例えば、ADHDのある子どもが課題に取りかかれないとき、「実行機能の問題が関係している」という同じ知識を持っていたとしても、それを課題や環境の調整につなげる場合もあれば、本人に繰り返し練習させる必要があると考える場合もあるでしょう。

つまり、同じ知識を持っていても、それを受け止める教育観や信念によって、実践は異なる方向に向かう可能性があるのです。

ここで問題にしたいのは、誰かの知識不足や教育観の善し悪しではありません。

私たちが持っている知識は、どのような信念や価値判断を通して、実際の教育的な判断や行動につながっているのでしょうか。

今回から3回にわたり、教師の障害に関する知識、信念、そして子どもの将来への期待を扱った研究を紹介しながら、「実態理解」と「教育実践」の間にあるものを考えてみたいと思います。

まず今回は、教師のADHDに関する知識と信念、そして教育的支援との関係を調べた研究を取り上げます。

2.今回紹介する研究:ADHDに関する知識・信念と教育実践

今回紹介するのは、Blotnicky-Gallantら(2015)による、カナダ・ノバスコシア州の小学校教員を対象とした研究です。

Blotnicky-Gallant, P., Martin, C., McGonnell, M., & Corkum, P. (2015). Nova Scotia teachers’ ADHD knowledge, beliefs, and classroom management practices. Canadian Journal of School Psychology, 30(1), 3–21.

これまでにも、ADHDに関する知識や誤解、障害に対する信念については研究が行われてきました。しかし、それらが実際の教育実践とどのように関連するのかについては、十分に明らかになっていませんでした。

そこで著者らは、小学校教員113名を対象に、オンライン質問紙を用いて、ADHDに関する知識、ADHDのある子どもに対する信念、そして教育実践の頻度との関係を検討しました。

調査では、次の3つの尺度が用いられています。

  • ADHDに関する知識(KADDS):症状・診断、治療、原因などに関する知識

  • ADHDに対する信念(B-ADHD):診断の妥当性、子どもへの期待、行動の捉え方など

  • 教育実践(IBMAS):授業方法の調整や、エビデンスに基づく行動マネジメントの実施頻度

参加者の平均教職経験は15.5年で、全員がADHDのある児童を指導した経験を持っていました。

なお、この研究は質問紙による横断研究です。教育実践についても自己報告であり、実際の授業を観察したものではありません。そのため、知識や信念が教育実践に及ぼす因果的な影響を明らかにした研究ではない点に注意が必要です。

では、まずADHDに関する知識について、どのような結果が得られたのでしょうか。

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